ビルの解体は、都市の景観や土地活用、老朽化による倒壊リスクの回避など、周辺環境にさまざまな影響をもたらす工事です。現場の状況に応じた工法を採用し、効率的に工事を進める必要があると同時に、安全性や近隣への配慮も求められます。ビルの構造や規模によっては、工事完了までにある程度の期間がかかるため、悪天候などの予期せぬ事態も想定して、計画的に解体業者への依頼を検討しましょう。
本記事では、ビル解体の手順や現場で主に用いられる工法・技術、期間と費用の目安を詳しく解説します。
目次
ビル解体の手順
ビル解体を安全かつスムーズに実施するには、解体業者の選定にはじまり、各種届出、周辺環境への配慮と安全の確保など、適切な順番で工程を進める必要があります。一般的なビル解体の流れは、以下のとおりです。
- 解体業者に現地調査・見積もり作成を依頼
- 解体業者を選定して契約を結ぶ
- 解体工事に関係する各種届出を提出
- 近隣住民への挨拶回り
- ライフラインの停止
- 足場や養生シートを設置
- ビル本体や基礎部分の解体
- 整地
- 産業廃棄物を運搬・処分
- 施主が現場を確認
- 解体工事費用を支払う
解体工事に関する各種届出は、多くの場合、解体業者に委任できます。近隣住民への挨拶回りについても解体業者に対応してもらえますが、苦情の発生や人間関係のこじれを防ぐために、できれば施主も同行するのが望ましいでしょう。
ライフラインを停止するタイミングは、解体業者にあらかじめ相談しておくのがおすすめです。特に、水道は散水作業に使用する場合もあるため、どのライフラインをいつ停止すれば良いのか確認してみてください。
その後、業者によってビルの解体作業が進められ、最終的に施主が現場を確認して問題なければ費用を支払い、引き渡しを受けて完了です。
ビルを解体する5つの工法
ビル解体で用いられる工法は、主に以下の5つです。
- ブロック解体
- 階上解体
- 地上解体
- だるま落とし式解体
- 上部閉鎖式解体
それぞれ異なる特徴があり、建物の構造や周辺環境に応じた最適な工法を選択することで、安全かつ効率的な解体工事を実現できます。
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ブロック解体
ブロック解体とは、タワークレーンを設置して、屋上階から順番に部材をブロック単位で切断し地上に吊り降ろしていく、ビル解体の代表的な工法です。敷地が狭い、あるいはビルが密集しているなど、地上に重機を設置できない現場で多く採用されています。足場や養生シートの設置方法は、ビル全体に設置する方法か、または解体する階とその上下に設置する方法の2種類です。
周囲への影響を最小限に抑えつつ、効率的に解体作業を進められるというメリットがあります。
階上解体
階上解体は、大型クレーンを使ってビルの屋上に重機を載せ、階上から下に向かって解体する方法です。オフィス街や繁華街のように、地上に重機を置くスペースがない現場で採用されることが多く、階下への移動にはコンクリート片などで作ったスロープを用います。
高所作業となるため、徹底した安全管理が欠かせません。事前に現地調査を行ったうえで、床抜けや壁の崩落のリスクを防ぐ必要があります。
地上解体
地上解体は、地上に設置した大型の重機で圧砕しながら解体作業を行う方法です。アームの長い重機を使って、ビルの上から解体していきます。使用する重機のアームの先にはカメラがついており、オペレーターは映像を確認しながら作業を進めることが可能です。
階上解体とは異なり、地上で作業を行うため、ビルの床抜けによるリスクを回避できるというメリットがあります。一方で、階上からの落下物や壁の崩落には注意が必要です。
高層ビルの解体にはより大きな重機を用いることから、現場周囲に十分なスペースがある場合に適した工法といえるでしょう。
だるま落とし式解体
だるま落とし式解体は、その名のとおり、だるま落としのように下の階から順に解体していく方法です。最初にビルの地上近くの柱を切断し、そこにジャッキという装置を差し込みます。各階の解体が終わるたびにジャッキダウンを繰り返し、つねに地上付近で作業をしながら、最終的に屋上階を取り壊すという流れです。
ジャッキの設置が不安定だった場合、ビルの崩壊リスクが高まりますが、改良によって耐久性に優れたジャッキも登場しています。また、だるま落とし式解体は騒音・粉じんの発生を抑えやすいというメリットもあり、周辺環境への配慮が必要な都市部での解体工事にも有用です。
上部閉鎖式解体
上部閉鎖式解体は、クレーンなどを備えた閉鎖式の解体設備をビル上部に設置し、閉鎖空間の内部で解体を行う方法です。上層階から作業を進め、解体設備を徐々に下の階へ降ろしていきます。
囲いの中で解体作業を行うため、粉じんや騒音の発生を抑えられるのが特徴です。
ビル解体に用いられる技術
ここまで紹介したビル解体の工法は、さまざまな技術によって成り立っています。解体技術のなかでも代表的な以下4つの特徴を見てみましょう。
- 油圧ブレーカ
- 油圧圧砕
- フラットソーイング
- ワイヤーソーイング
いずれも、解体工事の安全性と効率性を高めるうえで欠かせない技術といえます。
油圧ブレーカ
油圧ブレーカは、ビル解体をはじめとして、道路工事や基礎工事など多くの工事現場で活用されている装置です。油圧ショベルの油圧を使って先端のタガネを上下させ、コンクリートなどを砕きます。
コンクリート構造物の破壊、岩盤掘削、転石の小割りなど用途が幅広く、狭い範囲での作業にも便利です。
油圧圧砕
油圧圧砕は、コンクリート造の建物の解体で特に重宝されている技術です。油圧で動く圧砕機を油圧ショベルの先端に取り付けて、部材を挟み込み、圧縮したり砕いたりする作業を行います。
比較的小規模な建物なら、油圧圧砕のみで解体が行われるケースも珍しくありません。圧砕の技術があることで、柱や天井、壁などの大きな部材も効率的に小さくでき、スピーディに解体を進められます。
フラットソーイング
フラットソーイングは、床などの水平面を切断するのに適した技術です。円状のダイヤモンドブレードを機械に取り付け高速回転させることで、コンクリートなども切断できます。
機械の後方でオペレーターが歩きながら操作を行うため、精度が高く、小回りも効くのが特徴です。その他の技術との併用にも適しており、周辺への影響を抑えながら狭い範囲を少しずつ解体していく際に活躍します。
ワイヤーソーイング
ワイヤーソーイングは、水平面だけでなく、複雑な形状や大きな部材の切断にも適した技術です。ダイヤモンドビーズを数珠状に通したワイヤーを部材に巻きつけ、高速回転させることで切断します。
コンクリートや鉄筋といったあらゆる部材を切断でき、高所・地下などさまざまな場所で活用が可能です。ただし、切断に時間がかかりやすいため、油圧圧砕や油圧ブレーカと併用されることも多くあります。
ビルの解体にかかる費用の目安
ビルの解体工事にかかる費用は、建物の構造や規模によって大きく異なります。下表は、ビルの構造別にまとめた1坪あたりの解体費用の目安です。
ビルの構造 | 費用目安(坪単価) |
---|---|
S造(鉄骨造) | 3万~4万円 |
RC造(鉄筋コンクリート造) | 3.5万~5万円 |
SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート) | 4.5万~6万円 |
これらはあくまでも目安であり、実際の解体工事費用は、さまざまな要因によって変動します。なかでも注意したいのが、アスベスト建材が使用されているケースです。
事前調査によってビルの外壁や床材などにアスベストが見つかった場合、通常の解体工事とは異なる手順で作業しなければなりません。アスベストの飛散を防ぐため、手壊しが基本となったり、水・薬液の散布が必要になったりと、作業コストが増えるぶん解体費用も高くなる傾向にあります。
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ビルの解体期間の目安
ビルの解体に要する期間は、建物の規模や構造、立地などで変わってきます。ビルの構造別・坪数別の解体工期目安は、以下のとおりです。
ビルの構造 | 坪数 | 工期の目安 |
---|---|---|
S造(鉄骨造) | 50坪 | 約10~15日 |
100坪 | 約20~30日 | |
RC造(鉄筋コンクリート造) | 50坪 | 約15~20日 |
100坪 | 約30~40日 | |
SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート) | 50坪 | 約30~50日 |
100坪 | 約60~80日 |
一般的に、頑丈な構造のビルほど工期が長くなりやすく、特にSRC造は十分な余裕を持ったスケジュールで施工を依頼する必要があります。ただし、上記の工期はあくまでも目安です。ビルの立地条件やアスベスト建材の使用が認められる場合、さらに悪天候が続いたときなどには、目安の工期より長引くこともあります。
SRC造のビルでなくとも、解体工事は早めに計画できると安心です。
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ビル解体を依頼する際に大切なポイント
ビル解体を安全かつスムーズに進めるには、以下3つのポイントを念頭に置いておきましょう。
- 解体業者の資格の有無を確認する
- 地中埋設物の有無を確認する
- 近隣への説明と安全対策を徹底してくれる業者に依頼する
解体工事には安くない費用がかかると同時に、安全対策が適切でなければ事故のリスクも伴います。思わぬトラブルを防ぐためにも、違法性がなく、周辺環境への配慮も徹底している解体業者を選ぶことが大切です。
解体業者の資格の有無を確認する
ビル解体では、崩壊や粉じんによる健康被害、重機との衝突など、さまざまなリスクが伴うとともに、高度な専門技術が求められます。解体工事を安全に進めるためにも、解体業者が取得している資格や許可をチェックし、信頼性を見極めましょう。
解体業者を選ぶ際に確認しておきたい資格には、以下のようなものが挙げられます。
- 建設業許可または解体工事業者の登録
- 産業廃棄物収集運搬業許可
- アスベストに関する資格(石綿作業主任者など)
- 足場の組立て等作業主任者
- 重機の運転資格 など
建設業許可は、1件の依頼につき税込500万円以上の工事を行う解体業者に必須の資格です。税込500万円を超えない場合でも、現場エリアを管轄する都道府県知事から解体工事業者の登録を受けていなければ、工事を請け負うことはできません。
適切な資格を取得していない解体業者は、ルールに従わない可能性があるだけでなく、各種法令を遵守しているかどうかも疑わしいでしょう。信頼できる解体業者を選定するうえで、資格の有無は重要視したい要素です。
地中埋設物の有無を確認する
解体現場の地中から、古い水道管や浄化槽、建材などの地中埋設物が見つかった場合、基本的には撤去工事が必要になります。地中埋設物を残したままにすると、新たな建物を建てる際の障害となるほか、土地の売却後に不法投棄の責任を問われるリスクもあるためです。
事前調査の段階で、すべての地中埋設物を把握できるとは限らず、ときには解体工事を進めるなかで埋設物が発見されることもあります。このとき注意したいのが、工事中に見つかった地中埋設物の撤去費用は、事前に聞いていた見積もりには含まれていないという点です。
地中埋設物が見つかった時点で、通常は解体業者から連絡があります。その際、撤去費用について確認をとると良いでしょう。「どのような作業にいくらかかるのか」を都度把握しておくことで、あとから想定外の高額な追加費用を請求されるといったトラブルを防げます。
近隣への説明と安全対策を徹底してくれる業者に依頼する
ビルの解体工事で、騒音・粉じんを完全に抑えることは難しく、近隣住民に少なからず迷惑をかけてしまう可能性があります。苦情から大きなトラブルに発展するリスクもあるため、近隣住民への事前説明と徹底した安全対策は欠かせません。
近隣住民に対しては、工事内容や工期、どのような影響が出る可能性があるのかを事前に説明しておきましょう。十分な説明をせずに工事を始めてしまうと、不信感からトラブルに発展しやすくなります。
また、ビルの解体工事は、壁の崩落事故や床抜けなどの危険と常に隣り合わせです。近隣住民への配慮とともに、安全対策をしっかりと行ってくれる解体業者へ依頼することが、リスク回避のために施主としてできる最善策です。
まとめ
本記事では、ビル解体の手順とあわせて、主に用いられる工法・技術、費用や工期の目安、解体業者を選ぶ際のポイントを解説しました。ビルの解体工事は、ただ建物を取り壊すだけでなく、都市開発や土地の有効活用にも関わっており、規模が大きくなるほど周辺にも相応の影響を及ぼすでしょう。
また、ブロック解体や階上解体、だるま落とし解体などの工法と、油圧ブレーカ、油圧圧砕といった技術で成り立つ、専門性の高い工事でもあります。安全かつ効率的に解体工事を進めるうえでは、これらの専門性を持った信頼できる解体業者の見極めが重要です。
解体業者を比較検討する際は、費用の安さだけでなく、適切な許可や資格の保有、地中埋設物への対応、近隣トラブルを含む安全対策なども忘れずチェックしておきましょう。優良な解体業者への依頼は、施主である自分自身の安心感に直結します。
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