古い家屋の処分や建て替えにあたって解体工事を行う際、手壊しによる作業のほか、重機を用いるのも一つの方法です。重機の活用は、解体作業の効率性と安全性を大きく左右します。重機はサイズ・アタッチメントを含めてさまざまな種類があり、解体工事の規模や建物の構造、現場の環境に応じて適切なものを選ぶことが大切です。
本記事では、解体工事に使用される重機の主な種類やサイズの違い、特殊なアタッチメント、そして操作に必要な資格と費用面まで詳しく解説します。
目次
解体に使う重機について
解体工事に使用される重機には、豊富な種類とサイズの選択肢があります。それぞれ異なる特徴を持ち、解体対象の建物の規模や構造、現場の条件に応じて適切なものを選ぶことで、効率的かつ安全な作業を実現可能です。
解体工事で主に使用される重機の基本情報とサイズごとの違い、さらに大規模解体で使用される特殊な重機について見てみましょう。
重機の構造
解体工事で主に使用される重機は、「油圧ショベル」です。油圧ショベルはベースマシン(本体)やアーム・ブーム(作業装置)、アタッチメント(作業具)といった複数の構造から成り立っており、いずれも重要な役割を果たしています。
ベースマシン(本体)
ベースマシンは、重機が走行するための足まわりである下部走行体と運転席のある上部旋回体から成り立つ、油圧ショベルの中心となる部分です。重機オペレーターはこのベースマシンに乗り込み、重機の移動やアームの操作を行います。
アーム・ブーム(作業装置)
アームとブームは、人の腕のような役割を果たす部分です。腕に例えればアームは肘から手首までの前腕、ブームは肘から上の上腕に該当し、重機オペレーターが操作で上げ下げしたり、伸ばしたりして作業を行います。
アタッチメント(作業具)
アタッチメントは、アームとブームの先にあり、人で例えると手や指の役割を担う部分です。この部分は付け替えができ、状況に応じて最適なアタッチメントに変更すれば、1台の重機で切断・粉砕といった複数の作業ができるようになります。
重機のサイズ
油圧ショベルのサイズは、バケットの容量によって決まります。現場の条件や作業内容に応じて適切なサイズを選択する必要があり、必ずしも「サイズの大きな重機のほうが解体工事を手早く終えられる」というわけではありません。
解体工事に用いる油圧ショベルの主要なサイズ6種類と、それぞれの特徴を解説します。
サイズ | 特徴 |
---|---|
ミニサイズ | 全幅約1m、全長約4m 最も小さいサイズ |
0.1㎥サイズ | 全幅約1.7m、全長約4.5m 狭い道路や現場で活躍するサイズ |
0.15㎥サイズ | 全幅約1.5m、全長約4.7m 0.1㎥サイズよりもやや大きいサイズ |
0.2㎥サイズ | 全幅約2m、全長約5.2m 木造住宅の解体工事に使われるサイズ |
0.25㎥サイズ | 全幅約2.2m、全長約6m 重機の一般的なサイズ |
0.45㎥サイズ | 全幅約2.5m、全長約7.3m 鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建物の解体工事に 使われるサイズ |
0.7㎥サイズ | 全幅約2.8m、全長約9.4m 鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高い建物の解体工事に使われるサイズ |
ミニサイズ
全幅約1m、全長約4mの小型な油圧ショベルです。現場までの道路や敷地の入り口が狭い場合のほか、取り回し性に優れることから、狭小地での細かい解体作業にも重宝します。
0.1㎥サイズ
全幅約1.7m、全長約4.5mの「コンマイチ」や「ミニユンボ」と呼ばれるサイズです。ミニサイズの次に小さく、狭い道路や現場でも扱いやすいため、住宅地での小規模な解体作業によく使用されます。
0.15㎥サイズ
全幅約1.5m、全長約4.7mのコンマイチよりやや全長が大きい、「コンマイチゴー」と呼ばれるサイズです。一般的なサイズの重機と比較すると小さく、小回りが利くほか、4トンのトラックに載せられるサイズでもあります。このため、現場近隣の道路が4トンのトラックまでしか進入できない場合に選ばれるケースも少なくありません。
0.2㎥サイズ
全幅約2m、全長約5.2mの別名「コンマニ」と呼ばれるサイズで、木造住宅の解体工事に多く使われる、ややコンパクトな重機です。なかでも中規模の解体作業に適しており、操作性と作業効率のバランスが取れていることから、住宅街での解体工事にも重宝します。
0.25㎥サイズ
全幅約2.2m、全長約6mの別名「コンマニーゴ」と呼ばれる一般的な重機のサイズで、木造住宅の解体で主に使われます。機動性とともに十分なパワーを備えているため、さまざまな解体現場で活躍するでしょう。
0.45㎥サイズ
全幅約2.5m、全長約7.3mの別名「コンマヨンゴー」と呼ばれるサイズで、住宅の解体工事に使われる重機のなかでは比較的大きい部類です。木造の解体に使われることはあまりなく、鉄筋コンクリート造といった耐久性の高い建築物の解体時に活用されます。
0.7㎥サイズ
全幅約2.8m、全長約9.4mの別名「コンマナナ」と呼ばれるサイズで、鉄骨造やコンクリート造の建物のほか、高さのある建物を取り壊す際などに使用されます。大型の重機になるため、解体現場によってはスペースの確保が難しい可能性もあるでしょう。
大規模な解体で使用する重機
大規模な解体工事の場合、油圧ショベルでは対応できない高さや規模の建物を扱うために、より特殊な構造を持つ重機が使用されます。大規模解体で活躍する主な重機は、次の3種類です。
重機 | 特徴 |
---|---|
ロングアーム | 油圧ショベルよりアームが長い重機 10m以上の高さのある建物に対応 |
ツーピースアーム | 油圧ショベルよりアーム部分の接合点が一つ多い重機 15m前後の高さのある建物に対応 |
マルチブーム | アーム部分の接合点が複数ある重機 40~50m前後の高さのある建物に対応 |
ロングアーム
ロングアームは、油圧ショベルより長いアーム部分を備えた重機です。「ロングブーム」「ロングリーチ」または「スーパーロングリーチ」などとも呼ばれ、高さのある建物を解体するときにアームを伸ばして作業を行います。
アパートやマンション、ビルといった大型の建物を解体するときに使用され、10m以上の高さのある建物にも対応できるのが特徴です。
ツーピースアーム
ツーピースアームは、一般的な油圧ショベルよりアーム部分の接合点が一つ多くなっている重機です。そのため、ロングアームよりも高い場所の解体ができます。
マルチブーム
マルチブームは、アームの接合点が複数ある重機です。ツーピースアームよりさらに高い建物の解体にも対応でき、40~50m前後の高さがある建物(10~15階建てのマンション相当)の解体などで用いられます。現場の状況や建物に応じてアームの付け替えも可能です。
重機に装着するアタッチメント
解体工事に用いる重機の先端部分には、アタッチメントを装着できます。建物の構造や現場の作業状況に応じたアタッチメントを活用することで、1台の重機でもさまざまな作業に対応できるのがメリットです。
解体工事で主に使用されるアタッチメントを4種類紹介します。
アタッチメント | 特徴 |
---|---|
カッター | 物体を挟んで切断できる |
フォーク(グラップル) | 物体を挟んで解体したり移動したりできる |
ブレーカー(ハンマー) | コンクリートなどを連続打撃して粉砕できる |
大割・小割圧砕機 | コンクリートなどを挟んで粉砕できる |
カッター
カッターは、ペンチのような形状をした、物体を挟んで切断できるアタッチメントです。コンクリートや鉄筋などの硬いものの切断に適しており、鉄骨造のほかコンクリート造の建物の解体工事にも使われます。
フォーク(グラップル)
フォーク(グラップル)は、挟んでつかむ作業ができるアタッチメントです。解体作業に加えて、木材やコンクリートなどの廃棄物を挟んで選別したり、移動したりする際にも使用されます。すくい上げる動作を基本としたバケットとは異なり、物体を的確につかめるのがフォークの特徴です。
ブレーカー(ハンマー)
ブレーカー(ハンマー)は、先端にある筒状の金属で連続した打撃を行い、コンクリートなどを粉砕するアタッチメントです。コンクリート造の建物の解体や基礎部分を粉砕する際に使用します。解体工事のほか、道路工事や採石場でも用いられており、強力な打撃力によって硬い素材でも効率的に破砕が可能です。
スケルトンバケット
スケルトンバケットは、通常のバケットと違って網目があり、ふるいにかけて土とコンクリートを分別する際に使用できるアタッチメントです。メーカーごとにさまざまなサイズを展開しているため、作業の状況や用途に合ったものを選択しましょう。
大割・小割圧砕機
大割・小割圧砕機は、コンクリートなどを粉砕するときに活用するアタッチメントです。打撃で粉砕するブレーカーとは異なり、挟む力でコンクリートを粉砕します。
大割圧砕機で粉砕したコンクリート塊をさらに細かくするのが、小割圧砕機です。大割圧砕機による一次破砕、小割圧砕機による二次破砕と段階を踏むことで、効率的に解体作業を進められます。
近年登場した重機
ここまで紹介したオーソドックスな重機に加えて、比較的新しく登場した「0.1+ツーピースアーム」も解体現場で重宝されています。この重機は、0.1㎥サイズの油圧ショベルとツーピースアームが融合したものです。
従来の0.1㎥サイズの油圧ショベルでは、2階部分にアームが届かず、解体作業に時間がかかってしまうケースがあります。一方で、ツーピースアームは高い場所の解体作業ができるものの、狭い現場では使えないという課題がありました。
0.1+ツーピースアームは、通常の油圧ショベルよりアーム部分が多く、小回りも利くため、狭い現場にある高い建物でもスムーズに解体作業を進められます。
解体に使う重機の操作に必要な免許・資格
重機の操作には、基本的に運転免許証と重機に関する特別な資格が求められます。解体に使う油圧ショベルであれば、「小型車両系建設機械(解体用)運転特別教育」もしくは「車両系建設機械(解体用)運転技能講習」を修了していなければなりません。
この二つの資格の違いは、操作できる重機の機体質量にあります。
- 車両系建設機械(解体用)運転技能講習:3トン以上の重機
- 小型車両系建設機械(解体用)運転特別教育:3トン未満の重機
上記資格を取得できるのは、それぞれ「車両系建設機械(整地・運搬・積込・掘削)運転技能講習」「小型車両系建設機械(整地・運搬・積込・掘削)運転特別教育」の修了者です。受講にあたって普通自動車免許の所持は必須ではないものの、公道での走行や操作をする場合には必要になります。
油圧ショベルの大きさに応じて必要になる運転免許証の種類は、下表をご覧ください。
油圧ショベルの大きさ | 必要な運転免許 |
---|---|
車両総重量:5トン未満 最大積載量:3トン未満 | 普通自動車免許 |
車両総重量:5トン以上11トン未満 最大積載量:6.5トン未満 | 中型自動車免許 |
車両総重量:11トン以上 最大積載量:6.5トン以上 | 大型自動車免許 |
解体に必要な重機の費用
解体工事にかかる費用のなかでも、重機の調達費は少なくない割合を占めます。特に、新品を購入するとなれば相当額が必要になるため、中古品の選択やリース・レンタルの活用なども視野に入れてみてください。
ここでは、解体に用いる重機の購入価格相場を新品、中古に分けて紹介します。
新品で購入する場合
新品の重機を購入する場合、購入先やメーカーによっても価格は異なりますが、サイズごとの相場は次のとおりです。
種類 | 購入費の相場 |
---|---|
ミニサイズ | 約550万円 |
0.15㎥サイズ | 約650万円 |
0.2㎥サイズ | 約750万~1,200万円 |
0.45㎥サイズ | 約1,700万~2,000万円 |
上記はあくまでも一つの目安となるため、正確な金額を知りたい場合は、メーカーに直接問い合わせてみましょう。
中古で購入する場合
中古の重機を購入する場合、型式・年式やメーカー、状態の良し悪し、さらに販売店によっても価格は変動しますが、相場は以下のようになります。
種類 | 購入費の相場 |
---|---|
ミニサイズ | 約100万~250万円 |
0.15㎥サイズ | 約150万~400万円 |
0.2㎥サイズ | 約200万~500万円 |
0.45㎥サイズ | 約400万~1,000万円 |
新品を購入するよりは価格を抑えやすいものの、人気のある重機は、中古であっても高値で取引されている可能性があります。中古重機を取り扱っている販売店を複数リサーチしたうえで、比較検討すると良いでしょう。
重機を使った解体で大切なポイント
重機を使った建物の解体は、効率的に作業を進められる一方で、安全面や近隣への配慮が非常に重要です。解体工事で重機を使用する際、特に注意したいポイントを紹介します。
技術のある有資格者が操作する
解体工事中のトラブルを防ぐために、重機は技術のある資格保持者のみが操作するよう徹底しましょう。資格を持たず、重機の正しい扱い方を把握していない方が操作をすれば、重大な事故につながる事態も考えられます。最悪の場合、命を落とすことにもなりかねません。
また、重機を操作するには免許や資格が必要であり、無免許・無許可での操作は、事業主と作業者のいずれも罰せられる可能性があります。安全に解体工事を進めるためにも、適切な知識・経験を持った資格保持者による操作が不可欠です。
周辺への配慮を欠かさない
重機を使った解体工事では、現場周辺への配慮も欠かせません。作業にともなって発生する音や振動が、近隣住民の生活に少なからず影響を与えてしまうためです。
近隣トラブルを未然に防げるよう、あらかじめ近隣住民に挨拶を行い、音や振動の発生について説明しておきましょう。丁寧なコミュニケーションを心がけることで、理解と協力を得やすくなります。
また、重機での解体作業は、手作業と比較して粉じんも発生しやすいのが特徴です。防じんシートをきちんと設置する、こまめに散水をするなど、粉じんの飛散を最小限にとどめるための対策も求められます。
まとめ
解体工事に用いられる重機の種類と特徴、適切に活用するためのポイントを解説しました。重機を扱うには専門的な知識・技術が必要であり、自身で最適な重機を準備したうえで解体工事を進めるのは、なかなか難しいといえるでしょう。
また、重機の操作には資格や免許が必須となり、不慣れな場合には安全面でも不安が残ります。トラブルなく、スムーズかつ安全に解体工事を進めたいという方は、信頼できる解体業者に依頼するのも一つの選択肢です。
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